89 3人揃って、喫茶店

CATEGORY: 日常
DATE: 03/07/2018 12:23:10

「メールだ……誰からだろ」
「メールする相手なんて決まってるじゃない」

件名は空欄、リリーからだった。
久しぶりのメールだ。
わくわくしながら開封すると、本文は1行だけだった。

久しぶりにどこか行かない?

「どこか行かない?だって」
「どこよ……」
「この前はお姉ちゃんと喫茶店に行ったなぁ」
「羨ましいわ、本当」
「ラッキーも行こうよ」

返信すると、OKの返事が返ってきた。
夕方から3人で喫茶店。
全員そろってどこかに行くのは初めてだ。

「早く夕方にならないかなぁ」

楽しみで仕方ないようだ。
時刻はまだ昼過ぎ、太陽が元気に辺りを照らしつけている。

「で、喫茶店ってどこなの」
「ちょっとだけ遠いからバスで行こうかな」
「ふぅん、そうなの」

バスに乗り、空いている席に座った。
揺られること10分、もうすぐで到着……だが、アリスの様子がおかしい。

「……大丈夫?なんか顔色悪いわよ」
「酔ったかも……」
「もう、酔うなんて珍しいわね……もうすぐなんでしょ?頑張ってよ」
「……」

生唾が出る。あとちょっとの距離が、永遠のように感じられる。
酔いがひどくなってきた。

「はっ……はっ……」
「ほら、停留所よ」

そっと降りると、バスは何事もなかったかのように走り去っていった。
降りても酔いはおさまらない。
バス停の椅子に座って休憩する。

「ちょっと……こんなとこに座ってたらバスが来たとき誤解されちゃうわ」
「……」

一言でも喋ると吐きそうだ、と言わんばかりの表情にラッキーは黙った。
喫茶店で待ち合わせのはずなのにこれではリリーに心配を掛けてしまう。
アリスは頑張って歩き出した。

辺りはすっかり暗くなり、橙色の街灯が街を彩っている。
ラッキーが時折アリスの顔を確認するが、苦しそうな表情は変わらない。
暫く歩いているとリリーの姿が見えてきた。

「おーい、ここだよ」

聞き慣れた声だ。
喫茶店に入ろうとすると、リリーはすぐアリスの顔色が悪いことに気がついた。

「どうしたんだ、なんか苦しそうだぞ」
「ごめんなさいね……ちょっと酔ったみたいで」
「……ちょっと……じゃ……ない」
「あれ、アリスは乗り物酔いしたっけ」
「いつもはしないんだけどね……」
「かわいそうに、何か食べれば治るだろうから……とりあえず入ろう」

店主に案内され、3人は席についた。
アリスとラッキーは隣に座り、リリーは向かい側だ。

店内には小さめの音でジャズが流れており、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
テーブルに付いた傷、アンティーク調の照明、少しだけ枯れかかった観葉植物。
それらすべてが、どこか懐かしい感覚を覚えさせる。

「いい店ね」
「そう言ってくれて嬉しいよ」
「……」

相変わらずアリスは苦しそうだ。
暫くするとお冷とメニューが運ばれてきた。
少しだけお冷を口にしてから、アリスはメニューを開く。

「私はもう決めてあるから……好きなのを選んでよ」
「いろいろあるのね、どれにしようかしら」
「ラッキーは小さめにしてもらわなきゃな」
「そんなことできるのね、気が利く店だこと」
「……これと、これ」

リリーがまとめて注文する。

「ラッキーは何でも食べれるんだな」
「嫌いなもの以外はね」
「本当、不思議なことばっかりだ……別にいいけど」
「ラッキーは……お利口さんだから」
「お、喋れるようになってきたな」
「大丈夫だって、ここの料理食べたらすぐ治るよ」
「お腹……すいた……」

BGMの曲が切り替わったところで、料理が運ばれてきた。
コトン……とテーブルに置かれた料理を見てアリスは一瞬で元気になった気がした。

「食べていい?」
「当たり前だろ、食べようぜ……」
「ちょうどいい大きさにしてくれて、ありがたいわ」

もぐもぐ……とアリスは一言も喋らず食べている。
幸せそうな様子を見てリリーは笑った。

「おいしい?」
「うん!」
「もう元気になったみたいだな、はは」
「へぇ、すごくおいしいわ……外見だけじゃなく、本当にいい店なのね」

「アリス、最近の調子はどうだ?」
「もぐもぐ」
「……元気ってことだな、うん」
「そうね、最近は調子はいいと思うわ」
「安心したよ」

リリーが、注文したコーラを飲み終えた。
カラン……と溶けた氷が崩れて音を立てる。

「お酒を飲もうかな……」
「リリーはお酒が飲めるのね」
「少しだけなら、ね」
「お酒っておいしいの?」
「人によるな……少なくともあたしはおいしいって思うから飲むけど」
「じゃあ私も飲む!」
「大人になったら、な」

アリスのがっかりした顔を横目にリリーは梅酒を注文した。
お酒は二十歳になってから……と書かれたポスターがアリスをなだめる。

「なんでだめなの」
「成長に悪いから、かな」
「身長が伸びなくなっちゃうかもね」
「え……じゃあいらない」
「あはは……いい子だな」
「ラッキーも飲めばいいのに」
「いらないわ、別に」
「さすがにお酒は危険だと思うぞ……猫だし」

すぐに、注文した梅酒が運ばれてきた。
きれいなグラスに入っており、側面の水滴が反射してキラキラと輝いている。
いけないもの……と思えば思うほど、アリスにとってそれはもっと輝いて見えた。

「……はぁ、おいしい」
「ビールとか飲まないの、リリーは」
「苦いから嫌いだな、あたしは」
「ま、何を飲もうと文句は言わないわよ」

リリーが梅酒を飲んでいると、アリスの視線に気がついた。
頬杖をついてじー……っと見つめている。
禁じられたものほど誇大されて見えるのだ。

「……」
「わかったよ、一口だけだぞ」
「やった!」
「ちょっと……気をつけなさいよ」

お酒を口にするのは初めてだ。
一体どんな味がするのだろう、とアリスは目を輝かせている。
グラスを両手で持ち、少しだけ口に流し込んだ。

「……」
「……どう?」
「う゛ぇっ……!!」

苦味とも辛味ともつかない味が舌を駆け巡る。
ゴトッ!!と大きい音を立ててグラスを置いた。
すぐさま自分の注文したオレンジジュースを飲み干した。

「もう……まだ早いってことよ」
「あはは、どんな味だった?」
「まずい」
「うん、まだ早いってことだ」

一息ついたところで、やや涙目のアリスが質問する。

「これ、おいしいの?」
「ん?そうだな、おいしいよ」
「えー……」
「そのうち分かるさ」

その後、アリスはデザートを注文した。
会計を済ませて外に出る。
リリーは2人に別れを告げて帰路につく。

「帰るわよ」
「またバスに乗るんだね……」
「今酔ったら……多分吐くよ……」
「さっきガムを貰ってたわよね」
「それを噛んでたらいいんじゃない?」
「そうかなぁ……」

不安そうな顔でバスに乗り、2人は家を目指した。

次はこちら。

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